フランス語のコミュニケーションを読書から学ぶ – 小説5選
生きたフランス語表現を学ぶ、となると、Netflixや映画を見ることをすぐに思いつきますが、小説からも沢山学べます。コミュニケーションの方法は口頭もですが、手紙やメールなど、書く表現もありますよね。
この記事では、読書が好きな方、多読で勉強するのが好きな方向けに、会話・手紙で使えるような表現が多く、ストーリーが掴みやすい小説を5作品まとめました。日頃よく使うセリフや言い回しが数多く出てきて、難しい言葉が少ないので、テンポよく読むことができると思います。挫折しがちな外国語の多読に役に立ちますように。
1. Anna Gavalda : Je l’aimais
映画化もされているアンナ・ガバルダ氏の「Je l’aimais」。邦訳のタイトルは「ピエールとクロエ」。娘二人も残し、夫に去られたクロエを励ます義父のピエールが、彼の過去について打ち明ける話。義父と義嫁の対話なのですが、夫に置いて行かれたものの未練たらたらでヤケになっている義嫁が、夫の父親に丁寧でいられません。(義父は義娘にtuで話しますが、義娘は義父にVousで話しています。)そんな彼女に、誰にも話したことのない過去を義父が話します。二人とも腹の底から話しているので、気を遣いがちな義父ー義娘という関係を忘れた会話や内容が生きています。学んだ表現が沢山ありました。
例えば :
” Mais pourquoi est-ce que tu ne demandes pas le divorce alors? Avais-je fini par lâcher, agacé, je prends toutes les fautes sur moi. Toutes, tu m’entends? Même le caractère épouvantable de ma mère, je veux bien signer quelques part pour le reconnaître si ça te chante, mais ne t’encombre pas d’un avocat, je t’en prie, dis-moi plutôt combien tu veux.”
Je l’avais piquée au vif. … (Je l’aimais – P.69)
「 なんで離婚と言わないんだ?俺は苛立ったても全て手放す、すべて自分の過ちとするよ。 わかるか? 母親ゆずりのひどい性格だが、俺はそれを認めるのにどこかに署名する、君の気がそれですむのなら。でも弁護士を抱え込むな、いくら欲しいのか言えよ。」
俺は彼女の痛いところをついた。
- épouvantable : 恐ろしい、ひどい、不快な
- chanter à quelqu’un :(人の)気に入る (話し言葉)
- être atteint (touché, piqué) au vif : 痛いところをつかれる
2. Durian Sukegawa : Les délices de Tokyo
こちらも映画化もされている、ドリアン助川氏の「あん」の仏語訳「Les délices de Tokyo」。桜の木を中心に日本の自然が美しく描かれ、フランス語であっても情景の微妙さから、登場人物たちの繊細さがしっかりと伝わってきました。実際の会話シーンもですが、中盤以降、徳江と千太郎の手紙のやりとりがあり、会話にも使えるような表現が沢山ありました。親しい人へVousで書く手紙の美しさ、相手を思いやる言葉、勉強になります。
例えば :
Dites-moi, comment se porte Doraharu, ces jours-ci? Vous n’auriez pas le moral en berne, par hasard? J’en ai la vague impression. (Les Délices de Tokyo – P.146)
どらはるは最近どうですか? もしかしてやる気がないのではありませんか? 漠然とそんな印象があります。
- Avoir le moral en berne : 士気が低い (非常に低いレベルに達した様子)
こういうやんわりと近況を問いかける言い方ができると、日本語のニュアンスにかなり近いフランス語で伝えられるな、と思いました。
3. Ying Chen : Les Lettres Chinoises
イン・チェン氏の書簡体小説「Les Lettres Chinoises」。著者ご自身がカナダへ移住した作家であり、フランス語で作品を書いているせいか、ネイティブ独特の慣用表現や難しい言い回しがなく、読みやすいです。
上海に住む青年ユアンと女性サッサが主人公。ユアンは中国は自分のいる場所ではない、とカナダ・モントリオールへ旅立つ。その後サッサも移住する予定だったが、その前にカップルの親友、ダ・リーもモントリオールに到着。彼女は、中国に婚約者がいる人に恋に落ちるが・・・。
手紙のやりとりが増えるにつれ、中国の伝統や祖先崇拝、「春節」の祭りのような家族が集い大量の料理で大宴会をすること、中国政権の拘束、明らかな自由の欠如、路上でさえ行われる「絶え間ない監視」、「自己批判」は「同志」の非難、など、ユアンにとって大きなギャップとなっていくことがわかります。
中国の伝統と北米の「現代性」の対立に加えて、移民・亡命、国に属するという概念、祖国との距離を感じられずにはいられない移民の懸念、が主なテーマと言えるでしょう。
息子のユアンが父親に手紙を書くのですが、その中でこんな文章がありました。
On a toujours besoin de quelqu’un à dédaigner. Ainsi, quand il n’y a pas assez d’étrangers, on en crée quelques-uns. Les Soupéïens sont donc les mal-aimés de Shanghai, et les Shanghaïens, de Beijing, et les Chinois du continent, de Hong-Kong. On est toujours un peu méprisé et méprisant à la fois. On souffre des malheurs dont on n’hésiterait pas à accabler les autres le moment venu, d’une manière parfois plus acharnée. (Les Lettres Chinois – P.76-77)
人はいつも見下す誰かを必要とします。 よそ者が足りない時は、それを作ります。スーペイ人(中国のどこかの地方の人、と推測しますが、具体的にわからず)は上海では好まれない人々であり、それは北京における上海人であり、香港の本土における中国人です。 人は常に少し軽蔑され、同時に軽蔑をします。 時にさらに容赦ない方法で、その瞬間が来たら他人に攻撃することを躊躇しないという不幸に苦しんでいます。
- dédaigner :〜を軽蔑する、侮る
- acharné : 激しい、執拗な、容赦ない、手厳しい
「人はいつも見下す誰かを必要」なんて、人間の汚いところを言い当てていますよね。日本にもこの手のよそ者差別は存在するし、鋭い指摘です。こういったハッとする表現が他にもあり、フランス語の勉強、ということだけではなく、「海外に住むことによって変わること」について考えさせられました。父親に書く文章がVousで、日本と同じ年上を敬う東アジアのコミュニケーション方法がみえてきます。
中華系コミュニティーは相互援助が盛んなこともあって海外移住しやすいのかもしれませんが、他にも「自国の思想・価値観」を遠く感じるようになり、自国へ戻る意思を失ってしまって、そのまま海外へ定住する中国人もけっこう多いのかも?と思うようになりました。
4. Et si c’était vrai…
現代の恋愛系小説フランス人作家、と言ったら筆頭に上がるマルク・レヴィ氏のデビュー作品「Et si c’était vrai…」。邦題「夢でなければ」。この小説を元にして作られたアメリカ映画が「恋人はゴースト」。
サンフランシスコが舞台。若い医者であるローレン・クラインは、1996年の夏に自動車事故に遭い、昏睡状態に陥る。 ある日、若い建築家のアーサーが彼女の不在中に彼女の家に引っ越す。 彼はバスルームのクローゼットの中に幽霊である彼女を見つけ、会話が始まる。しかし彼だけが彼女を見ることができ、他の人には見えない・・。
ストーリーはよくあるタイプのラブストーリーっぽいのですが、キャラクターの感情に惹かれるところが多く、最後はなるほど、と思える展開で、楽しくほっこり読める作品と思います。日常的な口語表現とスタンダードな口語表現、参考にできるフレーズが沢山ありました。
例えば :
– Pourquoi fais-tu cela pour moi, Arthur?
-Parce que je vous aime et ça ne vous regarde pas. (Et si c’était vrai… P.181)
どうして私にそんなことをしてくれるの、アルトゥール?
僕は君たちが好きだからだよ、でもそれは君たちと何の関係もない。
- regarder : (物事が)・・に関わる、関係がある
5. Clélie Avit : Je suis là
2016年の読者賞に選ばれたクレリー・アヴィ氏の作品、「Je suis là」。エルザとチボー、2人の主人公がナレーターであり、各章で一方から他方へと移動していく形式です。
5ヶ月の昏睡状態にあるエルザ。家族と医師は彼女の生命維持を停止する時かもしれないという事実に直面している。しかし彼らはこの数週間でエルザが部分的に意識を取り戻したことに気づいていない。彼女は自分がどこにいるのかを知っていて、みんなが自分のベッドの周りで話しているのを聞くことができるが、自分がそこにいることを伝えられない。ティボーは、10代の少女の死にいたらしめた飲酒運転者である兄を訪ねに同じ病院へ来ている。チボーは混乱しており、ある日誤ってエルザの部屋に入った。だんだんこの部屋は彼にとっての避難所となり、エルザと彼の間に一定の親密さが生まれる。彼らはお互いを知らないが、すぐにお互いに恋に落ちるようになり・・。と展開していくストーリー。
文章はシンプルで、口語表現をよく取り入れているので読みやすいと思いました。
例えばメモった表現 :
Plutôt! De toute façon, Gaëlle est excitée comme une puce à l’idée d’avoir un week-end rien que pour nous deux, alors ce ne sont pas quinze petites minutes de délai qui la tracasseront… (Je suis là – P.129)
それよりも! とにかくガエルは私たち2人だけで週末を過ごすというアイディアに大興奮しているので、15分の遅延なんて彼女にとって問題ではないよ。
- Exciter comme une puce : 大興奮する
- tracasser : (人を)悩ます、心配させる
- 合わせて覚える →*se tracasser : 気をもむ、心配する
例文 : Ne vous tracassez pas pour si peu. そんなつまんないことでクヨクヨするのはおよしなさい。
一人は意識が目覚めてきているものの昏睡状態、一人は兄の犯したことに混乱中、こんな見ず知らずの二人が恋に落ちる、なんて設定が無理っぽく聞こえるかもしれませんが、美しい出会いで、ストーリーは自然でした。二人の感情に引き込まれ、面白く読めました。
今日の収穫
読書が好きなので、フランス語の小説もできるだけ読むようにして、自分の頭のフランス語化に努めています。作品をオリジナルで深く楽しみたい(フランス語の場合ですが)、という野望もありますが、フランス語で書いたり話したりするときに、表現が自然になるといいですよね。
挫折する本もあるのですが、挫折を減らすには
- 好きな本を読む
- つまらなかったらやめる
- あらすじを少し理解してから読む
がかなり効果的と思います。また、
- 時代背景が現代的なもの
- 親しみのある国や場所のもの(名前がすでに覚えにくい、など文化的背景をよく知らないとつまづきやすい)
を選ぶのも挫折をへらすのに役立つ、と思います。
なるべく読書が楽しめるよう、フランス・アマゾンのレビューやフランス語のブックレビューサイト Babelio で、あらすじの多い書き込みを少し読んでから作品を読むようにしています。批評に引っ張られすぎて読む気がなくなるのはよくないので、なるべく悪くない評価の批評を読むのがおすすめです(楽しみに読書できますし)。ただ批評を読んで読んだ気になってしまい、本を読まなかったら本末転倒なので、1〜2つくらいに留めるのがよいと思います。
今回ご紹介した作品5冊中、3冊は
フランス語の多読に。レベル別読み物初級〜中級者向け(A1-B1レベル) 15作品
という記事に含まれている本です。機会があると読むようにしているのですが、面白い作品が選ばれており、引き込まれる本が多いです。面白いフランス語の小説ないかな・・と探している方の参考になるといいのですが。
続きの記事もありますので、フランス語読書に興味ある方は、こちらも合わせてどうぞ。
フランス語の多読に。レベル別読み物中級〜上級向け (B1-C1レベル)20作品
フランス語学習の参考の一つになると幸いです。合わせてこちらの記事もどうぞ。
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