UNE LANGUE VENUE D’AILLEURS フランス語を愛して極めた日本人の半生記

UNE LANGUE VENUE D’AILLEURS フランス語を愛して極めた日本人の半生記

水林章先生の「Une langue venue d’ailleurs (2011年ガリマール社刊)を読みました。他所からきた言語、と訳せるでしょうか、氏とは全く違った境遇ですが、大人になってから勉強始めた言語なのでとても興味深く読めました。フランス語学習者の方、大人になって違う言語を学び始められた方、異文化に囲まれて生きる人にも一読の価値があると思ったのでご紹介します。

著者の水林章氏は、1951年に山形で生まれ育ち、東京外語大フランス語科を経て70年代にフランス・モンペリエ大学に留学。日本に戻りフランス語の大学教授をされ、後にパリで博士課程を修められ、現在はフランス在住の作家、学者・翻訳家として活躍されている作家(フランス文学研究者・教育者)です。この本は、氏のフランス語への愛と情熱、自分の中でフランス語がどんな存在になったのかを語る、自伝的な本になります。

美しいフランス語

「Une langue venu d’ailleurs」が、どのぐらい素晴らしいフランス語か、というと 2011年にアカデミーフランセーズよりフランス語・フランス文学振興賞(Prix du Rayonnement de la langue et de la littérature françaises, médaille de vermeil)を受賞、2013年にリシュリュー文学賞 (Prix littéraire Richelieu de la Francophonie)を受賞、とフランスの文学賞に選ばれてしまうレベル。外国人でこれは本当にすごい・・。

私は外国語の本を読むときに、わからない単語は文脈から意味が取れればよし、と調べないで読み進めてしまうことも多いのですが(しっかりやった方が絶対いいのですが)、この本はフランス語表現が美しく豊かでニュアンス的なことがはっきりわからないのがもったいないので、知らない単語は全部きっちり辞書を引いて読みました。新しい表現の学びになったのに加え、こんなふうにフランス語で表現できる人になりたいと改めてクリアなイメージを持てるようになりました。(志は高く)

ご自身による本の紹介動画はこちら↓です。書かれた作品も素晴らしいですが、話しをされても自然な話し方で、内容も頷いて聞き入ってしまいます。こういう風になりたい・・と先生の動画を見ながらシャドーイングしてます。

心に残った部分

読んでいて心にささった部分はこんな文章です。(私が勝手に訳しているので変なところがありましたら、ご指摘お願いします。)

まず、語学の上達についてこうも美しく表現できるとは・・とそのフランス語愛に感銘を受けた部分。

 

… à la fin de ma première année à Montpellier, mon amour pour le français avait-il des ailes d’anges, si j’ose dire. Il s’envolait doucement et hardiment ; il planait à une hauteur jusqu’alors insoupçonnée dans la sérénité du ciel des Lettres. Il avait gagné en profondeur aussi. Il plongeait ses racines dans les ténébreuses zones de la vie qui se déroulait sous les toits, dans les rues, dans les jardins, dans la ville, dans les campagnes, et dans toute une contrée enfin où se parlait cette langue, entre hommes et femmes, jeunes et vieux, enfants et adultes, habitants et gens venus d’ailleurs, et, finalement, entre moi, ce quelqu’un d’ailleurs, et les autres. 

… モンペリエの最初の年の終わりに、私のフランス語への愛は言うなれば、天使の羽を手に入れたようなものでした。穏やかに、力強く飛びたったのです。澄み切った”文字の空 “の中で、これまで思いもよらなかった高さまで舞い上がりました。深みも増しました。屋根の下で、街路で、庭で、町で、田舎で、そしてこの言語が話されている地域全体で、男と女、若者と老人、子供と大人、住民と別の地域から来た人々、最後によそから来た私と他の人たちとの間に、生活の暗い部分にまで根を伸ばしたのでした。

「母国語」と「父国語」という話もよかったです。

“Quand je parle de cette langue étrangère qui est devenue la mienne, je porte au plus profond de mes yeux l’image ineffaçable de mon père ; j’entends au plus profond de mes oreilles toutes les nuances de la voix de mon père. Le français est ma langue paternelle”.

私のものとなったこの外国語を話すとき、私の目の奥には父の姿があり、耳の奥には父の声のニュアンスが聞こえてくるのです。フランス語は私の父国語です。

育った国の環境で話される言葉を覚えて「母国語」を学びますが、ある外国語が「父国語」になる、とはどんな感じなのでしょうか?水林先生がモンペリエ大学に行く前の4年間、お父様からプレゼントされたテープレコーダーを常に使ってフランス語を学習された話があり、決して裕福とはいえない状況でも水林兄弟の教育にできる限りの援助を惜しまなかった敬愛するお父様の話があります。「フランス語は父国語」、といいきれるほどに、勉強するための援助を通して、どのくらいご本人のフランス語学習への情熱を後押しし、励ましてくれたことか。それがわかる素敵な父・息子関係にジンときました。

その素敵なお父様の言葉なのですが、積読の多い私には耳がいたい、本の大切さを説くいい言葉です↓

Aucune marchandise n’est meilleur marché qu’un livre, à condition qu’on le lise. Tu achèteras autant de livres que tu voudras, si tu en as besoin et si tu les lis. Rien de plus cher, par contre, qu’un livre, si on ne le lit pas, puisqu’on ne peut même pas s’en servir comme papier hygiénique. 

本を読むのであれば、どんな商品であっても本より安いものはない。必要で読むのであれば、好きなだけ本を購入しなさい。ただし、読まなければトイレットペーパーにもならないのだから、本ほど高いものはない。 

 Le jour où je me suis emparé de la langue française, j’ai en effet perdu le japonais pour toujours dans sa pureté originelle. Ma langue d’origine a perdu son statut de langue d’origine. J’ai appris à parler comme un étranger dans ma propre langue. Mon errance entre deux langues a commencé…  - P.261

私がフランス語を習得した日、私は日本語本来の純粋さを永遠に失いました。私の母国語は、母国語としての地位を失ったのです。私は母国語を外国人のように話しているのがわかりました。2つの言語の間をさまよう日々が始まったのです… 。

日本語を話しているのに、外国語を話しているような気がしてくることがある、これは語学学習者や日本語を話す環境が極端に少ない人だと、あってもおかしくない感覚かと思います。こういう風に言語化されると本当に納得です。

著者の他の作品

フランス語やフランス文学界隈を除き、在外の有名人、ということでは日本での知名度はあまり高くないかもしれませんが(私もフランスに来て初めて知りました)、フランスでは有名な日本人の著名人です。フランス語で大手出版社から本を出版されており、最新刊は2020年の「Âme brisée」という本で、フランスの本屋大賞(Prix des libraires )を授与されています。ちなみにこの Âme brisée は初めてのご本人が訳された日本語訳の出版があり、邦訳タイトルが「壊れた魂」(2021年・みすず書房刊)です。

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今日の収穫

豊かな表現にあふれ、言語としても社会学的考察としても、勉強になった本でした。私には水林先生ほどフランス語だけに、一つの言語だけに愛はありません。(英語、スペイン語、ドイツ語にも愛がある)かなり遅くから始めた私のフランス語の進歩は遅くて凹むけど、フランス語も好きです。うまくなるには、諦めないで努力・継続するしかないですね。

200ページ以上にわたるフランス語への情熱・愛がわかる、とてもいい本でした。

日本のAmazonで手に入らないのが残念です。Kindle版も出ているので、ご興味を持った方はフランスAmazonから購入できます。フランス・アマゾンの評価を見ると、「文体は稀に見る繊細さであり、私たちの言葉はこんなに美しいのかと感心させられます。」「バイリンガルへ向けた素晴らしいアプローチ」「この言語間の中間を、繊細でとてもニュアンス豊かに描写している」など、大絶賛・高評価の嵐です。

日本語情報 :  

静岡大学の学術論文アーカイブサイトにある安永愛さんの書かれた論文から本の大筋がわかります。フランス語は読めないけど内容に興味ある方や、フランス語で読むのを挑戦する前にスジをある程度わかってから本を読んでみたい人に参考になる、と思いました。リンクはこちらです。



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