フランスで生まれ育つアジア系移民2世の女性が書く家族の話  Jeune Fille Modèle

フランスで生まれ育つアジア系移民2世の女性が書く家族の話  Jeune Fille Modèle

中国でドルチェ&ガッバーナが炎上し、上海で開催されるはずだったショーがキャンセルされて市場からブランドをボイコットするニュースがありました。箸を使って食べる文化の国の人ならムッとするのが当たり前の失礼な動画が炎上原因なのですが、その抗議スピードが早くて爽快でした。

ヨーロッパやアメリカに住むアジア人は一般的に、勤勉で働き者、寡黙で控えめな印象を持たれています。怒ったり暴力的にならないという印象があるのか、言っても怒らないだろう的な差別発言はよくあるのですが、今回の炎上はこの差別発言に対して圧倒的な速さでモデルから著名人、国を挙げて怒りの購買ボイコットコメント、さらに12億人の人口を持つ国の大手の通販サイトでドルガバ製品全て撤去、と暴力ナシの素早い行動で怒りを示したので、本当にスカッとしました。

このニュースがでた頃に、フランス生まれの中国系フランス人女性グラス・リー(Grace Ly) 氏の「Jeune Fille Modèle」というフランスに育つ中国人ティーンエイジャーが主役の小説を読みました。

著者はお子さんもいる30代後半のフランス・グルノーブル生まれの弁護士。偶然彼女の活動をツイッターで知ったのですが、人種別に存在するステレオタイプな偏見を脱構築しよう、と意見を発している活動家でもあります。そんな彼女が出した初めての小説には、アジア人に対する偏見疲れと怒りが書かれています。

ご自身が中国とフランス(とカンボジア)の複数アイデンティティーを持っており、小さい頃は自分がアジアオリジンであることを恥ずかしいと思っていた、というあたり、日本人で1世として海外で子育てをする方は特に、2世となる子供達の悩みや考え方の共通項を見つけられそうで引っかかりますよね。

フランスに住む中国系フランス人2世の状況や感情がよく描写されていると思いました。著者と本のご紹介です。

著者紹介 Grace Ly 氏はどんな人?

彼女の両親はもともと中国の医大生で、カンボジアでさらに学業を続けていました。ところが一転、カンボジアでポルポト政権下にクメールルージュが大虐殺を行う70年代、それ以上国にいることができなくて、政治難民としてフランスにやってくることになりました。 著者はグルノーブルで生まれ、6歳の時にパリに引っ越し。彼女の両親は3人の子供を養うために、アジア人がやっているステレオタイプ的な仕事をすることを余儀なくされ、最初は生春巻き(←ベトナム料理)を出す中華レストラン、やがてレンタルビデオ屋を営むようになったそうです。

フランスに住む中国人の常套イメージそのものですが、グラス・リー氏は法律学校を優秀な成績で卒業し、その後ロンドンに渡り、2010年に弁護士の資格を手に入れます。2011年には la petite banane というパリにあるアジアンレストランやグルメの紹介ブログを立ち上げます。

でも彼女の望みはステレオタイプ的なイメージによって、アジア人全体が被っている人種差別にも取り組むこと。

自分自身にもすでに織り込まれてしまったような典型的アジア人の行動、ステレオタイプイメージと戦うため、このブログの中に Ca reste entre nous という短編ドキュメンタリーシリーズのコーナーを立ち上げ、この偏見を脱したいと考えるアジア人の座談会をアップロードしています。(動画はこちら↓)

 

 

 

 

こちらの製作担当に中国系と韓国系のバックグラウンドを持つ人たちのメンバー紹介がありました。でも日系の人がいない・・・パリに住む日系の方、誰かメンバーにならないかな・・と願っています。 

ツイッターでインタビュー記事を見つけましたので、ご興味ある方はどうぞ。

 

 

JEUNE FILLE MODÈLE ストーリー

パリのチャイナタウンに住むアジア系の女子高校生の人生を通して、彼女のブログ「La petite banane」から始まったアジア人に対するクリシェからの脱構築、をベースに話は展開します。

Trente ans que ma mère vit à Paris et elle parle toujours français comme une vache espagnole. Pas étonnant qu’elle soit née sous ce signe astrologique ….

「私の母親はパリに30年住んでいるが、いつもスペインの牛のようにフランス語を話す(Parler français comme une vache espagnole = ひどいフランス語を話す、という表現)。 彼女がこの星座の下に生まれたことに驚きはない・・」

冒頭の言葉から、皮肉かきいた反抗的な雰囲気漂っていますよね。ネタバレをあまりしないようストーリーを話すと、こんな感じです :

主人公のシィシィ(Chi Chi) はパリ13区に住む、母親に反抗的な中華系ティーンエイジャーの普通の少女。シィシィではなく、マリー、イサベル、ソフィーなどと呼ばれることを好んでいました。母親の アマ(Ama) はそんな彼女を外側は黄色で内側は白の「バナナ」である、と言います。外見はアジア人、中身はフランス人、という否定的な意味が込められています。

彼女の家族がやっているレストランの名前は “極東 (L’Extrême Oriente)”。ベトナムの春巻き、インドサモサ、マルティニークのココナッツジュースを出すような、なんでもありのよくあるアジアンレストランです。

毎晩、彼女は家族が経営する中華レストランの出前をしていますが、実際中国語はあまり話せないし、旧正月を祝う習慣は異国のエキゾチックな文化に感じています。アマが「カンボジアの中国人です」と言う時、シィシィは世界地図のどこにその国があるのか、どんな社会的背景を持つ国なのか正直わかりません。ただ彼女は他の10代の子たちと同じように EastPack のリュックを背負って、タバコを吸って遊びたいと思って生活をしています。

ある日、彼女の母親が脳卒中で倒れ、レストランを閉店しなければいけなくなります。ベッドの横でシィシィは彼女と家族の過去について知るようになります。

ポルポト政権下のカンボジアの混乱、飢餓の中の亡命、嘆かわしい生活条件。さらに大量虐殺から逃げ出したことによる報復を恐れた両親は、家族を守るためにアジア的と言われる謙虚さを守り続けていたのでした。シィシィは家族の悲惨な過去を知るようになり、徐々に彼女の家族の起源、独裁、逃亡、強制的な結婚の秘密を知っていくことになります。両親の傷跡は過去と同じくらい謎が多いのです。・・・

シリアスなテーマの中にユーモアを交えながら語られた、感動的な家族のストーリーでした。フランス以外のアマゾンだとまだ販売されていないようなのが残念。他の言語にも翻訳されるといいな、と思います。

今日の収穫

フランスでアジア系2世を育てる人、2世として育つアジア人には響く話ではないでしょうか。自分の子供たちも、どこかでアジアの血が入っていることをからかわれて傷つく日が来るのではないかと思ってます。そんな時に読んでもらいたい一冊かも。自分は自分、偏見をはねのける強さと柔らかさを自分でも持ちたいし、子供にももってほしいな、と思います。本を読んで、〇〇人だからXXというような、ある一定のステレオタイプの愚かさを改めて感じ入りました。

この手の人種偏見について語るGrace Ly さんとRokhaya さんという黒人女性がやっている Kiffe ta race というポッドキャストもあるので、興味がある人は聞いてみてもいいかもしれません。毎回30〜40分くらいの番組で、あるある!と納得してしまう話が多いです。ちなみにKiffer (もしくは Kifer)はスラングで「楽しむ」「〜が好き」という時に使われる動詞。Kiffe ta race は、君の人種を楽しもう、という感じです。イスラム系、黒人系、など各人種に、見た目で判断される偏見はありますよね。興味深いです。

ポッドキャストはこちらです → Kiffe ta race 

 



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください