在日コリアン家族4世代の物語「Pachinko」ミン・ジン・リー 

在日コリアン家族4世代の物語「Pachinko」ミン・ジン・リー 

2020年の夏に邦訳がでた、韓国系アメリカ人であるミン・ジン・リー氏の作品「パチンコ」のご紹介です。20世期の韓国と日本を舞台にした、4世代にわたる在日韓国・朝鮮人の家族の話です。500ページ以上ある長編小説、暴力とかエグい話多かったらやだな、日本への強烈批判だったら凹むな・・と読み始めるのに少し躊躇しましたが、読み始めたら日本の歴史として耳の痛いこと(戦争慰安婦の斡旋、日本統治下の韓国人へのいじめとか)も出てくるけれど、トーンとしては批判というわけではなくニュートラルで、壮大な家族の物語でした。

誠実な移民家族の話に、普遍的な「男と女」「母と息子」「母と娘」といったテーマも重なり、移民であり息子を持つ母である私は、連日夜更かし、先が気になって隙間時間があると手に取らずにはいられなかったです。

82年生まれ、キム・ジヨン」を読んだ時に、隣国韓国でも日本と社会構造が同じで、女性の社会的立場の低さと扱いのひどさが露呈されたのが快感で、日本でも男女ともに読んで同じような現実に気がついてさらに声をあげていくべきでは・・、と思いましたが、「パチンコ」も同じように感じました。この作品は、日本でははれもの扱いになっている「在日韓国人・朝鮮人」がテーマです。物語が終わるのが1989年で、30年後の2020年は多少の立場の変化もあるかもしれませんが、いまだに根付く「Zainichi」、さらに言えば、外国人に対する偏見に気がつけるのではないかと思いました。

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移民の苦労話

Kindleで英語版が1,99€という破格で販売されていたので、日本語訳とどちらにするか迷って値段に負けて英語版を買いましたが、英語版だと、小説の後にミン・ジン・リーさんの謝辞や紹介、インタビュー記事も読めます。(日本語版もあるのかも?)そのインタビューのなかで、

この小説の大部分は、第一世代の移民である、または二重の文化的アイデンティティを持っている、というプレッシャーを扱っています。 これはどのくらいあなたの経験に基づけられていますか? 戦争は個人や社会にどのような影響を与えると思いますか?

という質問があるのですが、ここで彼女は彼女のお父さんが朝鮮戦争で家族を亡くしており、10代で戦争難民となり、ソウルで大学教育を受けて実業家となり、その後渡米して中小企業の経営者となり、アメリカに帰化したアメリカ市民として今を楽しく暮らしている話をして、元々いた場所とは全く違うところで全く違う生活をしているのが大半の移民、という話をしています。さらに

The war and the memory of being a war refugee was not spoken of often, but these events lingered in the air of my childhood home. I think this kind of trauma is an unspoken legacy for many first and second-generation immigrants in the United States and elsewhere.

家庭の中では、戦争と戦争難民であったという記憶はあまり語られませんでしたが、これらの出来事は私の子供時代の家の空気の中に残っていました。この種のトラウマは、米国やその他の地域の多くの第1世代および第2世代の移民にとって暗黙の遺産だと思います。

と述べています。そして

Many of my friends and their families have been directly affected by the Holocaust, World War II, the Korean War, the Vietnam War, the collapse of the Soviet Union, and the suffering inflicted by military dictatorships in the Americas and in African nations.

私の友人とその家族の多くは、ホロコースト、第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、ソビエト連邦の崩壊、そして南北アメリカとアフリカ諸国での軍事独裁政権下で苦しみを負った影響を直接受けています。

Today, all of us live in an era of vast income, educational and information inequality. However, what we also witness each day is how many ordinary people resist the indignities of life and history with grace and conviction by taking care of their families, friends, neighbors, and communities while striving for their individual goals. We cannot help but be interested in the stories of people that history pushes aside so thoughtlessly.

今日、私たち全員が莫大な収入、教育、情報の不平等の時代に生きています。しかし、私たちが毎日直面するのは、個々の目標に向かって努力しながら、家族、友人、隣人、地域社会と関わり、優しさと信念を持って生活と歴史の差別に抵抗する普通の人々です。歴史が無意識のうちに押しのけてしまう人々の物語に興味を持たざるを得ません。

とあり、在日というピンポイントなテーマをグローバルな視点から見ていて、著者の考え方にとても共感を覚えました。

私は戦争などの迫害から移民したわけではないけれど、在仏移民の1世なので、子供達が今後自分のアジアの血をどう受け止めていくのか、少し気になっていたりします。中国人〜、とつり目ジェスチャー付きで子供は嫌がらせを受けたりするわけで、私は慣れてしまったものですが、ヨーロッパで生まれた子供はきっと意味なく辛いですよね。父さんは白人、母さんはアジア人、アジア人側の血をからかわれるのですから。移民差別を受けない社会に溶け込むとは何世代目くらいからなんだろう?と考えます。

噂のドラマシリーズ・配役発表

2017年に小説がアメリカでベストセラー、Apple TVがシリーズの契約をし、2020年10月にその配役が発表されました。IMDbのキャストを見ると、インターナショナルに活躍されている韓国系、日系の俳優さんが選ばれているのですが、Mosazu役に在日二世のSoji Araiさん(パク・ソヒさん)が選ばれているのが素晴らしいキャストだと思いました。他にも、韓国の有名俳優Lee Min-Ho(イ・ミンホ) さんがKoh Hansu役、南果穂さんがEtsuko役、と私でも知っているような俳優さんたちの出演が決まってたのも嬉しい話です。アメリカのショービジネス作品にアジア人メインのシリーズも出てきているのも、移民大国だからでしょうね。さすがや・・アメリカ。ヨーロッパのアジア人の立ち位置とは微妙に違ってきているのが感じられます。韓・日・英の3カ国語が使われるそうなので、こちも楽しみです。

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今日の収穫

それにしても・・。移民した先の国で差別に合うのはわかるのですが、自分のオリジンとなる国からも差別される場合があるのは辛い話です。小説にあるように、80年台の韓国でも日本在住の韓国人が職業的差別や制限を受けることがあったそうなので、今でもその名残はあるのかもしれません。

両国から差別がされるというダブルパンチをもらうなんて、その人自身の能力や性格とは関係ないところで生きにくくされてしまう移民の社会環境、なんともいたたまれない話でした。

フランスにおけるピエノワール(Pieds-Noirs : 1830年から1962年までのフランス統治時代にアルジェリアで生まれた、フランスおよびその他のヨーロッパ出身の人々。北アフリカのユダヤ人が入ることもある。)への差別は、ダブルで差別を受けている、という意味では韓国・日本でも差別されてしまう在日コリアンの立場に近いのかも、と思いました。フランスからもアルジェリアからも扱い悪くされてしまう人たちなので。

語学学習の観点でいくと、本を買ったときにフランス語訳が出ていないのが残念で、刊行されたらきっと移民大国、ピエノワール差別のあるフランスでも売れるんではないか?と思いました。早くフランス語に翻訳されて欲しい一冊・・と思っていたら!

なんと2021年1月12日から、フランス語版の販売という情報を発見!フランス語で読むことに興味ある方は、フランス・アマゾンをチェックです!

 

英語で読みましたが、日本が主な舞台となるので背景が想像しやすく、文章自体は短くてシンプルなので読みやすかったです。読み進めたくなるやめられない本で、ストーリーにひきづられて長編でも読めてしまうと思います。英語で多読したい方にも良さそうな本、と思いました。

ただ、日本語訳では大阪弁が巧みに訳されていて、大阪の貧しいエリアの臨場感がもっと出ているようで、英語で先に読んでしまった者としては、読んでみたくなっています、日本語版・・。

移民や女性がテーマの本、フランス語で読んだものをご紹介しています。勉強を兼ねていかがでしょうか。

フランスで生まれ育つアジア系移民2世の女性が書く家族の話  JEUNE FILLE MODÈLE

AUDIBLEをフランス語の勉強に使うには?挫折しないコツ7つ。

わたしはマララ MOI, MALALA

DANS LE JARDIN DE L’OGRE 「人喰い鬼の庭で」- レイラ・スリマニの1作目、はずさず面白かった

 



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