Dans le jardin de l’ogre 「人喰い鬼の庭で」- レイラ・スリマニの1作目、はずさず面白かった

Dans le jardin de l’ogre 「人喰い鬼の庭で」- レイラ・スリマニの1作目、はずさず面白かった

Chanson Douce』(邦訳「ヌヌ完璧なベビーシッター」)という2016年のゴンクール賞を受賞した作品が力強くとてもよかったので、著者レイラ・スリマニ(Leïla Slimani)の1冊目の作品『Dans le jardin de l’ogre』(人喰い鬼の庭で)を読んでみました。

レイラ・スリマニを世に知らしめた作品の話はこちらです →:  Chanson Douce 2016年 ゴンクール賞受賞小説

この本はニンフォマニア(性依存症)がテーマ。妻であり、母であり性依存症を抱える女性の話、すっかりストーリーに引き込まれていきました。物語にリズムと緊張感を与える直接的な文体で、1文がわりと短く、読みやすかったです。

フランス語以外でも、外国語で本を読む時、名前が覚えずらい、わからない単語が多すぎる、時代や文化的背景がわからなくてイマイチ通じてこない、など挫折しがちなポイントは結構ありますよね。多読の後押しになりそうな本を選ぶのにはどうしたらいいのでしょう?

  • 自分の興味を中心に(例えば私は家族、女性、外国語、移民、ライフハック系の話)
  • 時代設定が現代で文章と単語が難しくない
  • ストーリーが長すぎない

をポイントにして選び、

  • 読み始める前に、アマゾンや書評サイト(フランスはBabelio有名です) をのぞいて紹介文や感想を読み、あらかじめ本のイメージや情報をつかむ
  • 基本、知らない単語がでてきても、文の意味がわかったら辞書はひかない
  • でもどうしても気になる場合はしっかり辞書を引く

と挫折しにくくなると思っているのですが、この本もこの感じで進めたら最後まで読み通せました。それでは『Dans le jardin de l’ogre』の紹介・書評です。

 

 

著者レイラスリマニさんはどんな人?

モロッコ生まれのフランス・モロッコ人の作家、ジャーナリストで2児の母。2016年にゴンクール賞を受賞したことで一躍有名になりましたが、その後も、モロッコの同性愛者への刑罰、女性の身体統制を批判して、とOUT d’or 賞(LGBTIの人々に対するポジティブな発言をした人に贈られる賞)をもらったり、フランス大統領選の時からマクロン氏を応援しており、彼が大統領に就任後にはフランコフォニー担当大統領個人代表に指名されたり、と素敵な人!、を本当に体現している方です。

(写真 : http://outdor.fr/laureates2017/より)

 

本の概要

話はパリが舞台。主人公は、性依存症の35歳の女性アデル、職業は国際政治を専門とするジャーナリスト。かわいい2歳の息子ルシアン、愛情にあふれた医者の夫リシャルドがいて、生活は裕福で・・、とはた目には、愛、友達、仕事、お金、母性、美しさ、の全てを持っている女性に見えます。でも、そんな表面の下には依存症が隠れているのです。欲望は決して満たされず、衝動を抑えられない日々。彼女は、どこでも、見知らぬ人、隣人、さらには彼女の夫の同僚で友人でもある男性さえも必要とします。ある日、夫がスクーターで事故を起こし、半身不随となります。家にいることが多くなった彼はアデルが男と寝るために嘘をついて二重生活を送っていることに気づくようになり、精神的に追いやられて壊されていきます・・。

子供を無視する、夫に嘘をつく、仕事を放棄する、全てを失うような危険な状況にあっても、封じ込めることができない衝動。最後は予期せぬ結末でした。ハッピーエンドではないので読み終えたときにスカっとした気分にはなれないのですが、何ともいえない孤独感が残ります。

 

タイトルが「人喰い鬼の庭で」?

Une semaine qu’elle tient. Une semaine qu’elle n’a pas cédé. Adèle a été sage. En quatre jours, elle a couru trente-deux kilomètres. (…) Elle n’a pas bu d’alcool et elle s’est couchée tôt. Mais cette nuit, elle en a rêvé et n’a pas pu se rendormir. Un rêve moite, interminable, qui s’est introduit en elle comme un souffle d’air chaud. (…)

Sous la douche, elle a envie de se griffer, de se déchirer le corps en deux. Elle cogne son front contre le mur. Elle veut qu’on la saisisse, qu’on lui brise le crâne contre la vitre. (…) Elle voudrait n’être qu’un objet au milieu d’une horde, être dévorée, sucée, avalée tout entière. Qu’on lui pince les seins, qu’on lui morde le ventre.
Elle veut être une poupée dans le jardin d’un ogre.  – Dans le jardin de l’ogre P.13-14

(1週間、彼女はもった。1週間、屈服しなかった。アデルは賢明だった。4日間で32km走った。(…)彼女はアルコールを飲まず、早く寝た。でもその夜、それを夢見てから、眠りに戻ることができなかった。しっとりとした終わりのない夢は、熱い空気のように彼女に入り込んだ。 (…)

シャワーを浴びながら、彼女は体を傷つけられ、2つに引き裂かれたい思いにかられる。そして額を壁にぶつける。彼女をつかまえ、その頭蓋骨をガラスに突き刺さしてほしいのだ。 (…)群れの真ん中でモノになって、貪り食われ、しゃぶられ、丸ごと飲み込まれたい。胸をつねり、腹を噛んでほしい。彼女は人喰い鬼の庭で人形になりたいのだ。)

冒頭2ページを部分的に抄訳しましたが、抗えない中毒の状態がストレートに伝わってきます。ストーリーはこんな調子で、事実に基づいた乾いたかんじのナレーションが続きます。少しずつ淫乱の病理が現れていく展開なのですが、下品でもないし、道徳的でもない描写です。

タイトルの「人喰い鬼の庭で」とはどういうことだろう?と思いましたが、この引用部分から、鬼は「男」ですよね。群れなので、別に誰か1人である必要はなし。ウィキペディアによると、Ogre は人間のなま肉を食べる鬼。彼女にとって、体を貪りくう男たちに引き裂かれる場所が「庭」というか「楽園」のイメージなのもしれません。

 

 

満足しない人々はその周りも全て壊す

Les gens insatisfaits détruisent tout autour d’eux.  – Dans le jardin de l’ogre P.215

(満足しない人々は、その周りも全て壊すのよ。)

アデルの父の葬式の前にジンを一気飲みして言った母のシモーヌの言葉。シモーヌは夫に壊されて堕落したと思っているのです。アデルの依存症は幼少期の体験に根ざしたものなので、彼女的には自分は母親に壊された、と思ったと同時に、自分も他の人を壊していることを感じ入ったのではないかと思います。彼女の未来を暗示しているような言葉です。

この言葉は、依存症の人でなくても当てはまる話です。自己肯定や自分に対して満足がないと、周りの人との関係や物事がうまくいかないのは、世の常ですよね。心に留めたい言葉です。

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2020年7月17日に邦訳「アデル 人喰い鬼の庭で」も発売です!👏👏

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今日の収穫

「フランス語の多読」という意味では、先が気になって読み進めたくなる読みやすい本だと思いました。私の場合、アデルの病気がら、コトに及んでいるシーンが多く、事実を淡々と語る短い文が妙に生々しかったりして、前半3分の1くらいは読むのが苦々しいことがけっこうありましたが。

性依存というテーマはあまり興味はないのですが、作品全体は語られにくいタブーにがっつり切り込んでおり、作者の素晴らしい文学的な好奇心を感じました。今後も注目していきたい好きな作家の1人です。

最新の作品(2017年)は、Sexe et mensonges: la vie sexuelle au Maroc(セックスと嘘 – モロッコの性生活)という性に直球テーマ。この作家が時間をかけて沢山のインタビューをしながら書きあげた本なので、機会を見つけて読んでみたいと思います。

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フランス人も読む普通の小説をフランス語学習者のレベルに合わせて読むとしたら、どんな本が読めるのだろう?をまとめたのがこちらです ↓: 

フランス語の多読に。レベル別読み物初級〜中級者向け(A1-B1レベル) 15作品

フランス語の多読に。レベル別読み物中級〜上級向け (B1-C1)20作品 

 

難しくないフランス語で、フランス生まれ育ちのアジア系女性が書いた、フランスに住むアジア人に対する偏見がよく見えた作品はこちらです→ :  フランスで生まれ育つアジア系移民2世の女性が書く家族の話  JEUNE FILLE MODÈLE

 

 

 



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